大阪高等裁判所 昭和58年(ラ)200号 決定 1983年6月08日
抗告人
三洋電機クレジット株式会社
右代表者
仲井守
右代理人支配人
森本秀男
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一抗告の趣旨と理由
別紙記載のとおり<省略>
二当裁判所の判断
1 公正証書が民事執行法二二条五号に規定する執行証書(債務名義)となりうるためには、その請求が金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求として記載されていることを要する。そして一定の金額又は数量が記載されているといいうるためには、一定の金額又は数量が公正証書の記載自体から容易に確定しうべき程度に記載されていることを要する。一定の金額又は数量の明記がなく、公正証書の記載自体からこれを確定しえない場合は、たとえ他の資料によつてこれを確定しえたとしても、その公正証書は有効な執行証書となりえない。
2 一件記録によれば、抗告人が合併した株式会社サンヨークレジット大阪(以下クレジット大阪という)は、野村産業有限会社(以下野村産業という)が昭和五〇年一〇月二日株式会社住友銀行(以下住友銀行という)から三八〇万〇一〇〇円を借り受けるにあたり、その委託に基づいて連帯保証をし、昭和五一年一月二七日、クレジット大阪と野村産業及び野村正男との間で、クレジット大阪が将来右保証債務を弁済したときは、その弁済した元金及び遅延損害金と同額の金具を支払う(本件公正証書三条。なお右のほか、右弁済金額に対し、年一四、六パーセントの割合による遅延損害金を支払う、同四条)こと、野村正男がその債務の支払を保証することなどを定めた本件公正証書を作成したこと、クレジット大阪は昭和五一年七月二七日、右保証債務の履行として、住友銀行に対し、二七三万六三四九円の代位弁済をしたこと、そこで抗告人は本件公正証書に基づき、野村正男の所有不動産に対し、右弁済金にかかる求償権の強制執行として、本件不動産の強制競売申立をしたこと、以上の各事実を認めることができる。
しかしながら本件公正証書三条の記載は、クレジット大阪が野村産業の保証人として、住友銀行に対し弁済をしたときは、その弁済金額に応じて求償し得ることを記載しているにとどまり、その金額が本件公正証書の記載自体によつて特定されているものということはできず、したがつて右求償権の金額が、本件公正証書上一定額に定まつているものということはできない。すなわち、本件公正証書三条には民事執行法二二条五号にいう一定の金額の記載がなく(本件公正証書全体の記載によつても、その金額は特定できない)、その執行力もないといわなければならない。
そうすると、クレジット大阪が右代位弁済をしたことを理由に、本件公正証書三条及びこれを前提とする同四条に基づく本件強制執行の申立は不適法であり、これを却下すべく、これと結論を同じくする原決定は相当である。
3 よつて、本件執行抗告は理由がないから棄却し、主文のとおり決定する。
(小林定人 坂上弘 小林茂雄)